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2020年10月16日

梅田スカイビル・その後


もう一度梅田スカイビルに触れてみる

梅田スカイビル

梅田スカイビルの話。

以前、2018年の12月のブログで、

「梅田スカイビルはすごく身近にあるけど大阪府民にとってはある意味(物理的にも)遠いビル。外国人観光客に支えられている印象が強く、地元民は展望台に登る機会がなかなかないので機会を見つけて行ってみたい」

的なことをのたまっておりました。

 

あれから2年弱。梅田スカイビルを取り巻く状況は、ずいぶんと変化しました。

まず、梅田からのアクセスがストレスフリーになったこと。

これまでは200m以上もある暗くて暑い地下道を通らなければ西側にアクセスできず、これこそが精神的にも物理的にも梅田の街とスカイビルを隔てていた要因でした。しかしその地下道は大幅に短縮され現在は40mを残すのみで、残り165mは地上を歩けばよくなりました。2024年にはグランフロントの西側に新駅ビルが建設予定。巨大な公園が作られ、地下道は完全撤廃される予定です。地続きになることでスカイビルオフィス棟に勤める多数の方々の負担もかなり軽減されるでしょう。私の友達は以前、夏の朝通勤していると長い地下道で化粧が全部剝げるほど汗だくになるので、ノーメイクで会社に行ってスカイビルのトイレで一からメイクをしていると言っていたほど…。陸の孤島状態だったスカイビルは、ようやく、着実に梅田の一部になりつつあります。

もう一つの変化は、コロナにまつわるネガティブなお話。

以前のブログで外国人観光客が入場者の75%を占めると書きましたが、スカイビルの集客は完全なるインバウンド頼みであったため、緊急事態宣言以降ぱったりと客足が途絶えてしまいました。ご存知の通り外国人だけでなく国内客も自粛に努めていましたし、以前は観光客で賑わっていたドラッグストアのテナントも残念なことに煽りを受けて最近閉店してしまったようです。そんなコロナ禍、スカイビルも打開策として太っ腹の夏限定展望台フリーパスという物を発行していまして、たまたま訪れた時にそれを知った私は、それを利用してこの夏7回も展望台を訪れたのでした。(もちろん感染対策は万全で✊)

前置きが非常に長くなりましたが、今回はそんな梅田スカイビルについて。

2年前のブログでは未訪の状態であったため、中々よそよそしい書き方をしていましたが、7回訪れた私の目から見たスカイビルについて今一度綴らせて頂きたいと思います。これまでは正直印象がないに等しい建築だったのですが、今回とても好きなビルになりました。

がっつり調べたので非常に長いものになりますが、よろしければお読みください。

梅田スカイビルについて

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■梅田スカイビル

■竣工:1993年3月

■構造:SRC造/地上40階 地下2階 173m

■住所:大阪府大阪市北区大淀中1-1-88

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スカイビルは1993年3月に竣工。3年弱の歳月をかけて作られた世界初の連結型超高層ビルです。今日においては世界中に目を見張るようなデザインの高層ビルが多々見受けられますが、約30年前は全世界を見渡してもこれほどすべてにおいて突出したビルはなかなかありませんでした。施主は積水ハウス。施工は竹中工務店・大林組・鹿島建設・青木建設のJV。設計は、この梅田スカイビルのほかに京都駅や札幌ドームも手掛けたことで知られる原広司によるものです。

以前のブログにも書きましたが、2008年にイギリス「THE TIMES」紙によって「世界の建築トップ20」に、名だたる名建築(タージマハルやアンコールワット、コロッセオなど)とともに日本から唯一選出されたことで一気に世界的な名声を得るに至りました。(海外観光客人気が爆発したのもこの記事が元となっています)

同誌の選評によると、「梅田スカイビルほどアドレナリンがあふれ出る、スリルに満ちた高層ビルはほかにない」とのこと。建設から実に15年も経ったのちに発表された雑誌であり、すでにその頃には同ビルをしのぐような派手な高層ビルは世界中そこかしこに溢れていました。

そんな中で、この建築のなにがそこまで評価され、人を引き付ける魅力があると見做されたのか。以下に私の感想を交えつつ触れていきたいと思います。

歴史に名を刻んだ特殊な建築工法

この梅田スカイビルですが、一見してシンプルなキューブ型建築に見えなくもありません。しかし、少し目を向けるだけで、これがいかにこだわり抜かれたデザインであり、このビル全体が建築家原広司の大いなるロマンを体現した建築物であるかが伺えます。

まずは外観。緑や滝を有する小さな森のような庭園を備えながら、中心にどんと二棟そびえ立ったビルのガラスウォールには周囲の空や樹々が写り込み、季節や天気、時間帯によっても刻一刻と違った表情を見せてくれます。ガラス張りの高層ビルなんてそれこそ日本中に山ほどありますが、これだけ表面積が大きい同じ形のものが二つ並んでいるとなかなかの迫力で、他にはない魅力が感ぜられます。黄金比で計算された両棟の配置にも注目です。

二棟の独立したタワーは、39階にある透明なエスカレーターで連結しています。連結することにより、地震・風・振動への耐性が強化され、建築物の構造においても優れた効果が発揮されることとなりました。その二棟を頂上で円形に繋いでいるのが『空中庭園』と名の付けられた展望台です。54×54メートル、重さ1040トンにも及ぶこの空中庭園は、地上で組み立ててからワイヤーロープでつり上げる「リフトアップ工法」で施工されました。

地上150メートルまで完成させた2棟の最上部の内側にクレーンガーターを設置し、ワイヤーロープを巻き上げて持ち上げるやり方です。上にせり上がるにつれ内側に偏荷重がかかってしまうため、あらかじめ2棟のビルは外側に36mm反らせて建設し、最終的に最上部に空中庭園が持ち上げられた状態で垂直に修正されるよう構造計算されました。

リフト工事が行われたのはなんとたったの一日。1992年5月18日、朝の7時から巨大な庭園は毎分35cmのスピードで7時間かけて吊り上げられ、沢山の報道陣と一般の観衆たちに見守られながら午後9時には完全に上部で固定されたそうです。この非常に大胆かつ高難度な工事は、もちろん史上初の試みであり、世界の建築界に衝撃を与えました。以降大規模な建築工事で用いられ、日本国内では西武ドームの大屋根の改修工事や東京スカイツリーのアンテナ用鉄塔建設などの工事で活用されました。

独創的なアイディアの建築を実現させるには高い技術力とそれを支える資金力が求められます。このビルの建設費は750億円。因みにスカイツリー(634m)の総工費は400億円で、日本で最も高い超高層ビルあべのハルカス(300m・スカイビルの倍近い高さ)で760億円ですから、いかにこの梅田スカイビルが、バブル期真っただ中の日本であったからこそ建設し得た、桁違いに贅沢なビルであったかがお分かりいただけるかと思います。

大抵のビル(特ににこのようなオーナー企業が自社を含むオフィステナントとして利用し、かつ商業設備も兼ね備えたようなもの)は、建築主の意向がおおきく反映されるものです。しかしこの梅田スカイビルは、施主である積水ハウスによって、全体から細部に渡るまで設計者・原広司に委ねられ、彼の思想と理想が余すところなく投影された「芸術的建築」と呼ぶに相応しい建物になりました。

その結果、他ではあまり類を見ない、超高層ビルにしていち建築家の作品である、という稀有なオーラを纏って、今日まで名を馳せています。

真下から見ると本当に空に浮かんでいるかのように見える空中庭園ですが、写真で撮るとこんなかんじです。円の中に2本渡っているのが上りと下りのエスカレーター。左奥に見える透明の筒が低層階と高層階をつなぐエレベーターです。

ぽっかりと穴が開いたような構造は、宇宙船が飛び立った後をイメージして作られているそう。夜見上げると太陽のコロナのようなライトアップが綺麗です。

内装でも空と宇宙を表現

中に入ってみましょう。まず東側のビルに入って3階へ上ります。専用エントランスを抜けて先ほどのエレベーターで一気に高層階まで上るのですが、その廊下の壁には世界中のから集めた「天」に関する物語の一節が刻まれていて(日本からだと「銀河鉄道の夜」がフィーチャーされています)、それがそれぞれの国の言葉で書かれておりワクワクを煽ります。元々外国人観光客が多いと書きましたが、極東の地に遊びに来た観光客が、こんな場所で思いもかけず自国の言葉を見つけたら思わず嬉しくなるんだろうな、なんて想像してしまいます。スカイビル廊下アクリルパネル

35階でエレベーターを降りて、いよいよエスカレーターを利用して39階へ。ここまでは無料で来れるのですが、この階でも充分圧倒される眺めではあります。

40階にはカフェや展示コーナーがあるのですが、展示物にも宇宙と天を連想させる世界の高層建築物に関する散文や写真などが整然と並べられています。あえて無機質な雰囲気に拘って並べられており、内装全体が宇宙船の船内を感じさせるものになっていて面白いです。天井一つとってもこだわりは色濃く(写真では若干分かりづらいですが)、写真一枚目・パネル側などが展示されている壁側の天井はアルミ材が貼られており、二枚目三枚目・外側の窓はミラー張り。柱と窓枠・夜景が反射して映る面と、未来を思わせる金属面が組み合わさっていて、遊び心を感じます。

カプセル型の小型探査機のような小部屋には、構造模型や設計図の複製、竹中工務店が手掛けた件のリフト工事の様子などが映像でも見られます。

ぐるり窓が張り巡らされたカウンターごしに見える街のイルミネーションは銀河の星屑のよう。さながら宇宙船の窓から見た景色です。

先ほど触れたエスカレーターもインターステラー感がありますよね。(周りはガラス張りで透明です)

原広司は70年代にバビロンの空中庭園で知られる中東を旅しイマジネーションを高めました。その後1983年の建築誌の対談で「建築を始めた頃から、私の意識にはスウィフトの『ガリヴァー旅行記』のラピュタ島が常にあった」と語っています。彼の中で膨らんだ天・空・宇宙への憧れをそのまま現実のものとした建築なのです。

それでは一階上の屋外、スカイウォークと名付けられた展望台へと上ってみましょう。

7回も行ったので、いっぱい写真が…(笑)。晴天はもちろん、小雨降る日や曇りの日まで様々な表情を楽しむことができました。

夕日に染まる大阪の街と淀川の蠱惑的な美しさ。やがてぼんやりと街が灯りだすさまはとても幻想的ですし、夜のビル群は言うまでもなく華やかで煌びやかです。

そしてこの展望台の特筆すべき長所は、空全体が360°見渡せること。

あべのハルカスや東京タワー、スカイツリーなど様々行きましたし、どれも素晴らしい眺めでしたが、あくまでガラス越しの景色。六本木ヒルズのスカイデッキ(ハルカスにも一応屋上ツアーがあります)はオープンエアではありますが、あくまで屋上のヘリポートであって、階下の足場が見えていたり、眺望に特化したものではありません。この場所のように手すりにもたれて風を感じながら空と同化して景色を堪能できるのは、実は他になかなかない場所のように思います。

それともう一つ。これは梅田周辺の都市開発の結果論ではありますが、このビル自体が高すぎない為にほどよく景色との距離が近い。これも魅力の一つとなっています。あまりにも高い位置からの眺望は自分と外界とが隔たっているような感覚に陥り、どこか現実感がないような心持ちになりませんか。

その点170mという、今日としては決して高すぎる建築ではないにもかかわらず、周りにはその景観を邪魔するようなものがなく、自然も街も感じられる、本当に絶妙なロケーションに建ったビルだと思います。

 

空に憧れ、こだわった原広司。一番空に近い場所が解放されている構造になっているのは当然のことなのかもしれません。スカイビルという名をこれまで単なる固有名詞として捉えていましたが、数々の意味を知った今となっては、そこにも思想が込められているのだと感じます。

1986年彰国社から発行された『建築文化別冊 建築~あすへの予感 離陸への準備~』において、原広司は

「私たちは都市の170m上空に外気に触れる体験をするという一点に傾注して、この建物をつくった。この建物が、やがて出現するかもしれない空中都市へ向けての手短なあいさつとなれば、私たちの無上の喜びとなろう」

と述べています。ロマンチックな建築家の一作品は、竣工から30年近く経った今もなお、独自性を放ちながら世界中の人々の心を引き付けています。

 

ちなみに、ガラスウォールの上の方には鳥のシールが点々と貼られているのですが、ただの飾りかと思っていたところ、鳥がガラスにぶつからないようにするため天敵のフクロウのシールが貼られているんだそう。こんなのでぶつからなくなるんですね~。いいアイディアだなあと思ました。

 

長々偉そうに語りましたが、単純に素敵なところなので、来られたことがある方もそうでない方も、是非一度訪れてみられてはいかがでしょうか。現在は人出もかなり戻ってきているようです。よかった~!