企業インタビュー
INTERVIEW 03
企画推進室長
公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
BIM・FM研究部会部会長
年齢差や上下関係に縛られない、自由闊達で風通しの良い企業です。
まずはじめに猪里様のご経歴と入社経緯についてお伺いさせてください。
大阪大学大学院を修了し、新卒で大成建設に入社しました。
ちょうど設計事務所やゼネコンでCADやCGの利用が始まったころで、情報系のことをやっている情報システム部という部署に配属になりました。いろんな部署と協働でコンピュータ化を進めていくという状況の中、私自身がその情報システム部に配属になったということで、設計部門の担当として、設計者たちと一緒にCADシステムの開発や運用を担当させていただくことになりました。
元々大学院では建築設計も勉強をしていましたから、プログラムの開発やシステムを構築するよりも運用する、実際に使う場にいたいなと思っていました。
主に意匠設計者たちと一緒に、図面を描いたりパースを作ったりしていました。
猪里様といえばBIM関連のコラムなどをたくさん書いておられ、まさに日本の建築業界におけるデジタル技術の歴史と共に歩み、進化に寄与してこられた方だと思います。
30年ほど前は建築設計でコンピュータを使うということ自体がそれほど一般的ではありませんでした。
ちょうどPCが登場し、それを使ってCADをやりましょうという動きが出始めた頃でしたが、まだ一人に一台のPCという時代では到底なかったですね。
コンピュータを用いて組織として力を発揮するには、一人ひとりが自分のPCを用いて、みんなで情報を共有したり共同作業ができた方がいいわけです。CADやCGなどのアウトプットを作るよりも環境整備をする方がまずは大事だと思い、30~40代はそちらに力を入れてやってきました。
私が入社して10年目くらいにWindows95が出て、一般的にもインターネットやメールを使うことに対するためらいが一気になくなりました。
ワープロで議事録や資料を使ったりエクセルで表計算することで、コンピュータが便利だと思う人が増えました。PCで設計作業が出来れば一層便利になるということに気付いたんです。
入社2.3年目からAutoCADというものはすでにありました。
GX3とかGX5とか言っていましたが、その当時はディスプレイがCRTで20インチくらいで、値段も相当高く、設計者全員が使うという環境にはではあませんでした。そもそも設計者も使いたいとは言わなかったですね。
当社はWindowsに加えてMacintoshも使っていたのですが、MacintoshはDTPやグラフィックス、3D関係の使い勝手がいいソフトがあって利用していました。それがだいたい90年代頃です。
2000年代に入り、いよいよ一人一台のPCを持つようになりました。
皆がPCで作業をすることが増え、———例えばCADひとつとっても、当社ではベクターワークスとAutoCADを二次元CADとしてを使っているんですけど、その二つのデータをどうやって取り持つんだとか、そのようなことを一所懸命やっていた気がしますね。
2009年くらいからはBIMの環境整備に取り組み出しました。
私自身がBIMをやっていたというわけではなくて、前述の通り、PCを使う社員が増え、その延長で、これからは二次元じゃなくて三次元がいいよねということでBIMを取り入れる流れになりました。
今、どうして私が採用に携わっているかというと、大成建設で働いていただく環境を作っているみたいなところがあります。これまでもずっと設計者達の環境サポートをしてきたので、どこか共通の感覚でいるところもありますね(笑)
猪里様はファシリティマネジメント協会JFMAでも活躍しておられます。
具体的にはどういったことをされておられるのでしょうか。
JFMAではBIM・FM研究会の部会長をさせていただいています。この部会は2012年に発足したので、もう9年くらいになります。
ヨーロッパやアメリカでは、建築の生産段階だけでなく、もっとライフサイクル全体を通して、計画から、竣工後建物を利用してる段階でもデータを活用することで有効に使えるということがBIMの大元の考え方です。当社でもそういうことをやりたいね、と言う話をしていますし、私自身も本来そうあるべきだと思っています。
また他に「building SMART」という、BIMの世界標準を作ることを目指した国際的な団体の日本支部に参加をしていまして、やはり海外ではBIM自体が建築生産だけではなくてファシリティマネジメントに近い分野でも有効に使われ始めていたので、日本でもそこの可能性を広げていくべきではないか、というようなことをJFMAの人たちと話をしていました。
その延長で、BIMの取り組み向けの研究部会を作っていくことになり、部会長を仰せつかりました。
今はなかなか設計施工のところでしかBIMは活用されていないという印象はあるんですが、企画~維持管理、解体と、全体で使用されるには、もう少し時間がかかりそうなところですか?
そうですね。二次元CADの遷移をたまたま初期から見ていた者からすると、今は大学生に至るまで様々な方が普通にお使いになられている状況ですよね。それは「CADというソフトがいいからPCと使っている」というわけでなく、…先ほどの話にも繋がりますが、一人一台PCが使えるようになり、メールやネットや表計算を当たり前に使用するようになったことで、同じPCで図面も描けたらいいんじゃないの、という利便性の延長で使っているような気がしますね。この状況になるまでにやはり20年30年はかかっていて、それを考えるとやはりBIMも20年くらいかかるんじゃないのかなと思っています。
今がだいたいその中間地点くらいかなという気がするので、あと10年もすれば設計や工事に携わる人たちが普通に使っているような社会になっているんじゃないでしょうか。あくまで希望的観測ではありますが。
維持管理の部分で行くと、発注者側の人がまだ使いこなせない状況だと思います。
ちょうど今、国交省建築BIM推進会議なんかで議論をされていますが、発注者がBIMを使う必要があるのかどうかというところだと思います。
BIMを日本に持ち込んだのが建築設計をしたり、元々CADを使っている人たちで、建築を作る人たちの目線で語られることが多く、出来上がった建築を使う人達・所有してる人たちにとっては、別に作る時のプロセス・ツールというのは、はっきり言ってなんでも良いんじゃないかなと思っているんです。
ただ、自分たちが保有している建築施設を丁寧に使っていく上で必要なツールであれば使うだろうし、不要なものは使わない。それにあたるものがBIMなのかどうか?ということですね。
ただ、今まではその情報として、二次元CADの図面やエクセルなど、テキストと数値のデータでお渡しをしていたと思うので、それをどれだけ有効にお使いになっているのかということ点が建築をつくる立場としては不明であり、気になる点でした。そういう部分にBIMの可能性があるのではないかなと思っています。
日本の建築生産システムは欧米とは違うと私は思っていて、一番大きな特徴はゼネコンという存在だと思うんですね。いいか悪いかは別として。
その中で欧米でBIMに期待することと日本でBIMに期待されることでは違っているような気がしています。
きっと同じようには進まないと思いますね。
話は変わりますが、猪里様がこれまで手掛けられた中で、代表的な案件について教えてください。
具体的な建築物ではないですが、NHKさんが以前、NHKスペシャルで四大文明とか大モンゴルなど昔の都市を題材にした番組をお作りになられました。その古代都市の再現をCGで行いたいので協力して欲しいというご依頼を受けたことがあります。
それが放送されたり、後々本になったりもして、記憶に残る仕事になりました。
色んな建築のCGを作ってきましたが、それらとはまた違う達成感があって嬉しかったですね。
ありがとうございます。次に、設計部門の組織についてお聞かせ願えますか?
今は約1000人くらいが設計部に所属しています。
意匠設計者が450人くらい、構造設計者が200名ほど、設備設計者が200名ほど、あとはそれ以外のスタッフです。
全国の8つの支店に設計部がありますが、90%が東京の本社で、他社さんに比べても圧倒的に東京に集中してます。その次に大きい関西支店で40人程度、名古屋で30人くらいですから、ほぼ一極集中と言えると思います。
設計施工の案件の官民比率はどのくらいでしょうか?
基本的に民間が多いです。昔は官庁案件なんて出来なかったですからね。
官庁案件はやはり、PFIとかPPP、DB(デザインビルド)の案件が増えてきたのに併せて受注が増えました。特に実施設計に携わることが多いです。
官庁の仕事に携わるようになってきたのはここ20年くらいの話ですね。
最初のPFI案件は、霞が関中央合同庁舎第7号館だったと思います、そのコンペが約18年前ですね。竣工してからは14年になります。
現在、御社で得意としている案件はありますか?
データセンターとか物流施設、食品工場なんかも比率としては他社さんより多いとは思いますが、特色と言える特色は無いと思います。例えば、昔は「ホテルの大成」と呼ばれていた時期がありました。1964年東京オリンピックに際してニューオータニさんやオークラさんを建てさせていただきました(ホテルオークラは2019年の新本館The Okura Tokyoも大成建設が施工)が、今は別にホテルは大成じゃなきゃ駄目だという訳でもありません。特色もないですけれど、逆になんでも出来るとも言えると思います(笑)
別のインタビュー記事で、製薬とか食品工場などのエンジニアリング分野に力を入れていくという内容もお見掛けしました。
そうですね。それはエンジニアリング本部という部署があって、そこはプロセス等々含めて計画をして製造設備をお納めするという部署なんですけれども、当然建物も一緒なので、当社内のエンジニアリング本部と設計部が一緒に業務をおこない、最終的にパッケージとして納めるっということをやっています。
エンジニアリング本部は製造設備や特殊なシステムなどに強くて、例えば水を浄化するシステム等も得意としていますので、国内の水族館も沢山手がけています。
今後増やしていきたい案件等はありますか?
増やしていきたいのは、他社さんに遅れを取っているという意味で、木造・木質の案件ですね。
他社さんは高層ビルを木造で建てたりしてますけど、我々はまだそこまでの実績はありません。実績ができていないというのはビハインドかなというふうに思っていますし、そこは強化していきたいかなと考えています。
あとはどうしても今後人口が減っていきますから、新しいものばかり作っていくわけにもいきません。リニューアルとかリノベーションというのは、これまでも当然力を入れてましたし、実績も沢山あるのですが、さらに力を入れていきたいなと言う風に思っています。
あとはリニューアルとリノベーションにも関連しますが、2030年にカーボンニュートラルを実現しようとすると、どうしても住宅非住宅含め、建設現場でも、建物を利用している間も、Co2の削減をしていかなければならないという大きな課題もあります。そういったところの技術開発もしていきますし、リニューアルと共に取り組んでいきたいと考えていますね。
他のスーパーゼネコンさんと比べて、大成建設様の設計部の強みは何だと言えるでしょうか。
私はほかのゼネコンさんで働いたことがないので、比較してというと何とも言えないのですが…。
当社には大成スピリットというものがあります。「自由闊達/価値創造/伝統進化」という三本柱です。
私が入社して35年、もう最年長に近い部類になってきましたが、入社した時から変わらず、あまり年齢差や上下関係に縛られない会社だと思います。
いわゆる部長とか偉い人がいますよね、そういう中でも「お前は新入社員だから黙っとけ」なんて言われることもなく、自由に発言ができて、色んな議論が交わせます。
今の若い人たちもそんな感じでのびのびと発言していますし、その内容がよければ年の差は関係なく、そのアイデアが採用されたりしていますね。
それは別に設計部だけということではなく、色んな部署でそうだったので、そういうところはまさに自由闊達で風通しの良い組織なのではないかなと言う風には思っています。
そこが他社さんとの大きな違いであり、強みなのではないですかね。
また、設計事務所と比べての違いなどはありますか?
ゼネコンはどこも同じ会社の中に設計部門と施工部門があります。現場に人がいて、近い位置に上司がいて、細かいことでもすぐに共有できます。その分要求は厳しくなりますが…。
あとは言葉遣いの面でも違うでしょう(笑)外部(設計事務所)の方が入っておられる現場だとやはり丁寧に言いますが、同じ会社の人間相手にはダイレクトに伝えますよね。関係性が近いからこそですが、怒鳴られることもあるでしょうし、雰囲気が全然違うと思います。
そして、やはり最終的に、施工部門の者は最終的に出来上がった建築は大成建設がお納めするので、品質については施工部門が非常にセンシティブな責任を負っている。我々も同じようにその責任を持たなきゃいけないと思っていて、だから要求は厳しいですよね。品質的なチェックというのは設計の部門でもしますし施工部門でもやりますから、細部まできめ細やかに一貫して見られるというのはあると思います。
それと当社には技術センターという研究所があります。困った時に相談に乗ってもらえて、そこから一緒に技術開発をすることもありますし、それが最先端の技術になって実際我々がプロジェクトで使うことができるという、面白さと利便性がありますね。
あと他に都市開発本部という専門部署があり、再開発や大きな開発に携わっているので、そこに設計も一緒に加わることで大きなプロジェクトに関わることのできる楽しさがありますね。
最後に、設計部の採用についてお聞かせ願えるでしょうか。
構造・設備の担当者も別にいますが、私が基本の採用窓口をさせていただいています。
初めに私がチェックした方を、構造に紹介したり設備に紹介したり、BIMをやっているチームや工事監理をやっているチームなど、その専門性によって振り分けていくということをおこなっています。
面接は入る場合と入らない場合があります。構造・設備は入らないですが、意匠、BIMとか工事監理、デジタル系の方の面接には入らせていただいていますね。
ゼネコンの設計部っていろんな仕事があるんです。建物の規模も大きいものだけをやっているわけでなくて、…さすがに個人宅はないですが、小さな規模のものもあります。様々な用途の建築を設計してるので、色んな事が経験できるというのは面白いところなんじゃないかなと思います。
それと社内に様々な専門家たちがいるので、そういう人たちと一緒に設計をして物を作っていくという楽しさもあります。建築というのは一人ではできるものではないですし、近くに多種多様な仲間がいるっていうのは、設計をしていく上でも非常に心強いんじゃないかなと思います。
面接に入られた時は、どんなところを見ておられますか?
設計の実績は皆さんそれぞれ経験されているので、それはそれでお聞きしますが、先ほど設計は色んな人たちと一緒に業務をおこなっていくというお話をしましたけど、そこでのコミュニケーション能力というのはやっぱり重要なんですね。黙々とやっているだけではやっぱり伝わらないことも多いので、面接ではそういうところを見させていただいています。
あとはそこでメインで見るわけではないですけれど、どうしても業務上、繁忙期もあるので、そこを理解して頑張ってもらえる姿勢を持っていてくださるといいなとは思いますね。
建設業は2024年までは時間外労働の面で猶予されていますが、やはりその部分をしっかり考えて改善していくのが業界としての課題だと思います。設計事務所さんなんかは早くに取り組まれていますしね。
そういう点でもBIM、DXで業務を効率化しなければいけないと思っていますし、デジタル技術で単純作業の手が空くようになって、もっと設計者が考えられる時間を作れるようになったらなと思っています。私自身がBIMをやってる訳ではないので、えらそうにも言えないですけど(笑)、そういうことの一つにもBIMには寄与してもらわないといけないかなと考えています。
インタビュアー:浜野昌弘
日本を代表するスーパーゼネコン。
国内外における建築・土木の設計・施工、環境、エンジニアリング、原子力、都市開発、不動産など幅広い分野で事業を展開している。