コラム 建築技術者が書く、リアルなお仕事コラム。
構造設計とは?
今回は、建築における構造設計の役割と課題を現役構造設計者が独自目線で解説します。
「建築構造設計業界への転職に興味があるけれど、具体的にどういう考えで仕事しているのかわからない、もしくはこれからどうなっていく業界なのかわからない。」という方は、ぜひご一読ください。
構造設計の役割と構造設計者に求められる能力
「構造設計」は、意匠設計(間取り、デザイン)・設備設計(電気、空調)と並ぶ建築設計における役割の一つで、主に建物の柱や梁といった骨組を考える仕事です。
構造設計を担う構造設計者は、建物が地震や台風などの自然災害に対して安心・安全であるかどうかを考え、構造力学などの知識を武器に構造図や構造計算書を成果物として求められます。
一見すると、構造設計は技術力を武器にして構造図や構造計算書を作る閉じた仕事に思われがちです。
純粋な技術力は重要な能力の一つではありますが、経済社会の中で建物が造られる以上、構造設計者はお客様に合わせた安心・安全のレベル(”クライテリア”)を常に考える必要があり、技術よりもコミュニケーションが重要になる場面が多くあります。
例えば、耐震改修などお客様が建築に詳しくない場合には、構造設計者が対話の中で本当の要望やお財布事情を聞き出して構造設計資料に反映し、説明責任を果たすまでがデフォルトになりつつあります。
デジタルツールにより技術力による個人の差が小さくなったことが大きな要因となり、近年では構造設計者が職人のような技術一辺倒にはならず、コミュニケーション能力や傾聴する能力を持つことが重要になっています。
構造設計の実務でよく考える課題3選
構造設計の役割を踏まえて、構造設計者が実務で考えることが多い課題を3つご紹介します。
どの課題も構造設計のみで完結する話ではないため、構造設計者は意匠設計者や設備設計者、さらには施工者とも話し合いながら設計内容を調整する能力が求められます。
課題①:建物が安全・安心・長持ちする構造設計であるか。
当然ではありますが、構造設計者は人命を守ることを第一に考え、”建物が安全・安心・長持ちするものであるか”を常に自分に問い続けます。
先述の通り建物は構造設計者のみで設計をしているわけではないため、意匠上の理由から”柱が置けない”、また設備上の理由から”設備ダクトが通るので梁が架けられない”ということがよく起こります。
こういった調整依頼に対して、構造設計者は本当に調整をしても建物の安心・安全・長持ちが担保されるかどうかの判断を常に求められます。
安全・安心・長持ちしないと判断した場合には、構造設計者は依頼者に対してその設計では難しいことを伝えつつ、時にどうすれば構造上可能なのかという代案を返答することも必要になります。
課題②:経済的負担が過剰な構造設計になっていないか。
建物の経済性は、不動産物件、俗にいう収益物件を設計する場合に考えることが多い課題です。
こういったことが求められる背景には、建物における構造躯体費の割合が全体施工費の中で大きな割合を占めることが要因としてあります。
収益物件を設計する場合、構造設計者は必要十分な安全性を前提にしつつ、可能な限り構造躯体費を削減することが求められます。
例えば、鉄筋コンクリート構造の収益物件を設計をする場合には、構造設計者はコンクリート量・鉄筋量・型枠量などの積算項目に対して、各目標数量をあらかじめ想定した上で設計に取り組み、建物の安全性を担保しつつも目標数量に達しているかを考える必要があります。
目標数量に達することが難しい場合には、その理由を説明し必要十分な設計であることを伝えて周囲の理解を得ることが必要になります。
課題③:施工ができる、もしくは施工がしやすい構造設計であるか。
構造設計者は、建物の骨組を設計するため実際に施工可能かどうかの検証も求められます。
特に建物規模が大きい構造設計であれば、完成した段階の安全性の確認とともに施工途中段階での安全性についても検証(施工時解析)が必要になります。
また工事着工前に構造設計者が施工者と話し合い、より効率の良い施工方法を探したり、建物形状が複雑な場合には本当に施工可能であるか検証することもあります。
構造設計者は構造設計の技術だけでなく、施工方法についても十分な知識を持っていることも重要になります。
施工管理を経験した後に構造設計者になった方をお見受けしたことがありますが、施工現場での知識をフルに生かして構造設計に取り組んでいる姿が印象的でした。
構造設計のこれから-構造設計と構造計算の違い-
構造設計は、社会的責任が大きく納期もある仕事なので肉体的に大変であることは事実です。
しかい近年では、CADや一貫解析ソフトなどデジタルツールの発達により、作業を一部自動化した設計も可能な時代になってきており、「昔に比べたら楽になった」という声をよく聞きます。(実際に残業時間も確実に減ってきています。)
ただし全ての作業が自動化されるわけではなく、上述した課題に対して複合的な判断が求められるため、あくまでもデジタルツールは構造設計者が課題解決するための補助をしていくものだと考えられています。
裏を返せば、設計者の判断が必要な”構造設計”業務は今後もなくならないですが、課題解決のない作業だけの”構造計算”業務は今後デジタルツールにより効率化されていくのではないかと考えられています。
10年前は""構造計算""ができるだけで褒められましたが、近年では”構造設計”によって課題解決できているかが重要になりつつあります。
頭でっかちなトップクラスの技術力を持つ構造設計者よりも、柔軟に周りの意見を受け入れ、技術力はなくともデジタルツールの力を借りて課題解決ができる構造設計者が求められる時代になっているのかもしれません。
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