コラム 建築技術者が書く、リアルなお仕事コラム。
高度・複雑化する施工管理業務
建築施工管理の業務は日々複雑・高度化してきています。
安全基準はより厳しくなり、施工に関連する規則は複雑化、現場を動かしながらではなかなか把握できません。意匠設計はIT技術を駆使して高度化し二次元CADに落とせない三次元加工もザラにあります。品質基準も高度化、コンクリートも表面の微細なヘアクラックさえ抑制しようという動きがあります。
このような複雑・高度な施工管理を上手にこなすには、「施工計画」と「施工準備」が欠かせません。個人スキルに依存していた業務を、組織全体で協力しあい、集合知として展開していく必要があります。
複雑な施工は、無数にある業種をさらに細分化させる原因にもなります。無数の業種が関わる建設現場において、施工管理士は人をまとめ、技術を司る役割を果たします。これからの施工管理士は、施工に関する業務だけでなく人をまとめるマネジメント能力を磨くことがさらに重要となってくるでしょう。
複雑化するデザインと高度化する施工管理
建築に対する法令や施工規則、遵守項目の「縛り」は増えていく一方で、品質の向上も同時に求められます。このような複雑・高度化する施工管理にあっては「施工計画」と「施工準備」がますます重要なウェイトを占めます。
そもそも、施工計画や施工準備の重要性を説くのは今に始まったことではありません。昔から、職人の世界には「段取り八分、仕事二分」という言葉があります。きっと誰しも聞いたことがあるでしょう。仕事全体のうち、段取りをしっかり終わらせておけば、仕事の8割は終わったと言われます。
施工管理は「段取り」側の仕事です。各職方と入念な打ち合わせを行い、一つの建物を作るのに入念な段取りを行います。施工計画を立案し、準備するのが私たち施工管理者の仕事です。
もう一歩踏み込んで、段取り側の施工管理において「段取り八分、仕事二分」とは何を意味するのでしょうか?
建築に対する縛りは、以前はここまで大きくなく各職方の裁量によるところもありました。しかし、社会が発展していく中で設計が複雑になり、縛りが増え、品質の要求が高度になると、それに対応するための計画や準備が重要になります。耐震・防火・環境・品質など増える中で上手く計画を立案するためには対案を考え、施工方法を研究しておく必要があります。
対案の模索や研究は特段難しいことではないと思います。しかし、意識して行わないとおろそかになりがちな部分でもあります。施工情報は書籍やweb、SNSからも入手できます。書籍は研究され体系化された知識の集合体ですし、日経コンストラクションや建築技術等の雑誌は最新の情報知る良い機会です。webやSNSからは精度は荒くなりますが技術者の見解や施主の感想を知ることができます
それ故、高度・複雑化する施工管理業務において、施工計画・準備を行うことが「仕事二分」だとすれば、日々の研究や対案の模索は「段取り八分」と考えて差し支えないでしょう。
「商品」として売り出される建築
社会の変化でしょうか。建築は「商品」として売り出されるようになりました。
住宅はその最たる例です。商品として売り出されることで、欠陥がなく安定した品質を求められるようになりました。
商品としてはともかく、欠陥がなく、安定した品質が求められるようになったのは大いに歓迎できます。高度経済成長期からバブルにかけて、住宅を供給する必要のあった30~40年前の住宅は安普請であったことは否めません。それらを引きずらず、品質の良い住宅を提供することは、環境問題や長期利用の観点からとても重要なことだと考えます。品質が良ければ年数がたっても重大な不具合が少なく、修繕や改修工事が楽になり中古市場の利用率も良くなるでしょう。
質の良い住宅を作るには、施工管理者の役割も重要です。煩雑な縛りや高品質を維持するには、個人スキルに依存せず組織全体で住宅の質を保つ仕組みが必要です。
現在の戸建て住宅は、星の数ほどある規格品の部材を組み合わせて作る方式が一般的で。住宅設備品はもとより、建具や建材、木軸や金物、鉄筋やコンクリートまで規格化され組み合わせ作られます。個々の製品を見ればかなり良い品質に仕上がっているますが、これらを組み合わせる力が施工管理を行う上で重要なウェイトを占めます。規格品を使う以上、会社で仕様を整理し共通化しておくことが組織としての施工管理品質の向上に繋がります。星の数ほどある規格品は、良い組み合わせ・ダメな組み合わせが当然生まれます。それらの知識を蓄積しておき、共有することで組織として質の高い施工管理が可能となります。そのためにはデータを蓄積し、整理して知識・知見として共有しやすい形に整え、IT技術を活用して組織全体で共有していく必要があります。
組織「力」が重視される野帳場
商品化の進む一般住宅に対して、野帳場は現場ごとの組織力が重要なキーワードになります。
施工管理業務が複雑・高度化すると、各業種はますます細分化された専門家の集団となります。無数の業種は、いわば人の集まりです。人の集まりをまとめるほど難しいことはありません。無数の業種をまとめ、組織としての力を発揮させることが施工管理業務として重要なウェイトを占めるようになるでしょう。
人をまとめる以上、業務にマネジメント研修や勉強は必須です。資格試験や業務マニュアルでは「施工管理」という観点のみで書かれています。しかし、現場で人をまとめるためにはマネジメントが欠かせません。大手ゼネコンでは既に取り入れられていいますが、中小では完全に個人スキルに依存している組織が大半です。
実際にマネジメントを学んでみると、施工管理に通じるところがあります。昨今は建設業に合わせたマネジメントが研究され、体系化されています。日々施工管理業務に従事しているなら思い当たる節が多く、わりあいすんなり取り入れられるでしょう。ただし、マネジメントは実践することがポイントです。
組織力を強化するためにも、業務の一環にマネジメント研修を取り入れてはいかがでしょう?
コラムアーカイブ
- 1級管工事施工管理技士について、資格取得者が語る勉強方法など 1級管工事施工管理技士資格とは こんにちは。設備工事会社で空調・衛生・消火の施工管理をしてい...2023.09.12
- 建築物省エネ法について:設備施工管理のポイント 平成27年7月に【建築物のエネルギー消費性能向上に関する法律(建築物省エネ法)】が制定され、その規...2023.09.05
- 建築技術者が担える「営業」の話~信頼と受注の相乗効果~ 建物の建設時における工事種別は大きく建築工事・建築設備工事の2つに分けられ、建築設備工事の中でさら...2023.08.29
- 建築設備(機械)設計担当で成長できたこと 建物の建設時における工事種別は大きく建築工事・建築設備工事の2つに分かれ、建築設備工事の中でさらに...2023.08.22
- 設備施工管理が教える「受注側」と「発注側」の違い 建物の建設時における工事種別は大きく建築工事・建築設備工事の2つに分けられ、建築設備工事の中でさら...2023.08.08