コラム 建築技術者が書く、リアルなお仕事コラム。
設計のこだわり(構造設計)
構造設計一級建築士が語る、構造設計でのこだわり
皆さんは建物を設計する上で譲れないこだわりや、大事にしていることはありますか。設計者それぞれに自分なりのこだわりがあると思います。
今回は、現役の構造設計者である筆者が設計する上で大事にしていること、こだわりについてお話しします。
意匠設計者とのコミュニケーションでは「なぜ」を大事にする
構造設計の仕事というと、どのようなイメージをお持ちでしょうか。なんとなく、難しい計算プログラムを使用して、安全性に配慮しつつ、意匠設計者に指示された断面に収まるようにコンピューターと格闘しているというイメージを持っている方も多いと思います。
もちろん、そのイメージも間違いではなく、一日中パソコンの前で計算ばかりしているという日もあります。
しかし、そのように計算をする段階にたどり着いた時には、構造設計の7割くらいは完了しており、計算にたどり着くまでがとても大変です。
構造設計に限ったものではないですが、設計は様々な制約条件の中で行う必要があります。
その条件を整理し、方針を決定するまでが構造設計のなかで最も重要で大変な作業となります。
この方針がブレるとあとで手戻りや間違いの元となるため、慎重に決定する必要があります。
そこで、特に意匠設計者とコミュニケーションする上で大事になるのが、「なぜ」を確認することです。
「なぜ」梁せいを小さくしたいのか、「なぜ」そこに柱を配置したくないのか、意匠設計者の意図を確認することを、私は大事にしています。
「なぜ」を確認することで、意匠設計者のイメージを正確に共有できますし、場合によっては違った解決方法が見つかることもあります。
意匠設計者の言われた通りにするだけでなく、「なぜ」そうしたいのかを確認することで、意匠と構造がマッチしたよりよい建築の実現、設計の後戻りの回避をすることができます。
図面や計算書に記載した全ての内容について理由を持つ
構造設計という分野は、とにかく合理性を求められる分野です。
どうして、そんなに断面が大きいのか、そんなに強度が必要なのか、きちんと合理的な理由で説明することが求められます。
例えば、小梁の断面一つを決める際にも、様々な決定要因があります。断面サイズは応力で決まっているのか、変形で決まっているのか、余裕度はどの程度考慮しているのか、なぜその余裕度としたのか、座屈長さや許容応力度はどうやって求めたのか、など、多くの要因から小梁の断面は決まっています。
構造設計者はこれら一つ一つに対して、全て理由を説明できなければなりません。
その理由も、過去の類似物件でそうなっていたから、上司にそう指示されたから、といった理由でなく、その数値や前提条件が工学的に妥当であるといった目線である必要があります。
とくに一貫構造計算プログラムなどは、デフォルトで設定されている様々な前提条件があります。最近のプログラムは優秀なので、あまり意識しなくても、一般的な建物であれば妥当な条件となるようになるよう設定されていますが、その分ブラックボックス化しがちです。
マニュアルをよく確認し、細かな設定まで理解して、今回の建物に対して妥当であるか確認する必要があります。
もちろん、最初から全てを理解することはできませんが、柱サイズから構造計算式の係数一つに至るまで、全ての内容について理由を持つという意識は構造設計をする上でとても重要だと考えています。
構造設計はツールに過ぎない
最後に、構造設計はツールにすぎないということです。
ここまで、意匠設計者やオーナーからの様々な要求を整理して、ボルト一本に至るまで細部についても理解して構造設計を行うことが大事だというお話しをしました。
しかしながら、これらはあくまで建物をつくるための手段に過ぎません。オーナーや社会にとって良い建物を設計することが、本来の目的であり、設計者に求められることだと私は考えています。
構造設計で扱う内容は、あくまで一つの指標であり、それだけでは評価できない内容がたくさんあります。そのような広い視野で構造設計を見たときに、本当に検定比ギリギリの断面としてよいのか、意匠設計者の要望を大した検討もせずに断ってよいのか、よく考える必要があります。
目の前の仕事にとらわれてしまうと、本当に大事なことを見逃しがちです。
構造設計をするために建物があるのではなく、建物を実現するためのツールとして構造設計は存在しているということを常に意識しています。
構造設計のやりがい
ここまで、構造設計者である筆者が日頃設計する上で大事にしていることやこだわりについてお話してきました。構造設計というと縁の下の力持ちといった印象がありますが、意匠設計者はオーナーの要望をかたちにするという仕事なのに対して、構造設計者は意匠設計者の要望をかたちにするという仕事であり、クリエイティブでやりがいのある仕事です。
また、同時に、災害時には人の命を守る社会的責任の大きな仕事でもあります。
建築をより現実の建物に近いかたちで表現したい方、社会の安全に貢献したい方は、構造設計者を目指してみてはいかがでしょうか。
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