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建築設備(機械)設計担当で成長できたこと

2023.08.22

建物の建設時における工事種別は大きく建築工事・建築設備工事の2つに分かれ、建築設備工事の中でさらに電気設備工事、機械設備工事に分けられます。私は機械設備工事に新卒から12年間従事してきました。今まで工場や病院、一般ビル、研究施設などを機械設備の設計してきた中で私が経験して感じた事をお話し致します。

機械設備とは?

機械設備は空調、換気、衛生、ガス、消火、自動制御など幅広く扱う設備の事で、重量物の荷重計算や制御のための電気負荷計算など様々な知識が必要とされます。

空調設備は皆さんが良くご存じのエアコンであり、病院・工場では温度と湿度を一定に保てるような大型の空調機があります。手術室や半導体工場では空気中に浮遊する小さな埃やチリを取り除き綺麗な空間(クリーンルーム)が必要であり、大型の空調機を使用してクリーンな空間を作り維持しています。

換気設備は新型コロナウィルスで注目されるようになりましたが、部屋内にフレッシュな外気を強制的に導入するためのファンやダクトがあります。

衛生設備は給水、排水、トイレ、洗面があり、水を温水にするボイラーや給湯器、水が断水しないように貯水タンクや貯湯槽があります。その他にボイラーや給湯器への燃料となるガスを供給するためのガス設備があります。

建築物には火災が生じた場合、人や物への被害が甚大ですので、できるだけ延焼や人への被害を低減するために消火設備の設置が法律で義務付けられています。天井に10cmくらいの金具が等間隔に設置されたスプリンクラーは有名です。いざと言う時に大量の水を一斉に噴射することにより鎮火したり、延焼を遅くし人が避難するための時間を作ったりする素晴らしい設備です。

自動制御設備は、手術室や工場など温度や湿度を常に一定に保つ必要のある建物で活躍します。常に室内を監視し、温度が高くなってきたら空調機の温度を目標値まで下げるようにしたり、室内の二酸化炭素濃度が高くなってきたら換気量を増やすようにファンの回転数を自動的に上げたりする制御回路を構築し人が介すことなく室内環境を保つための必須設備です。

機械設備設計の内容

皆さんは、真夏の炎天下でもお店の中は空調がしっかり効いて快適な温度に保たれている事を感じる事が多いと思います。どんなに外が暑くても、どんなに多くの人が入ったとしても建物内は一定になるよう空調機の能力を設計で決定しているからです。空調機の能力計算には、最大外気温度、最大許容在室人数を想定し発熱容量から室内の熱負荷を計算します。またガラスの種類や厚さ、外壁の断熱材の種類や厚さ、隣室からの伝熱負荷、居室内に発熱する機械がどのくらいあるのか把握し、一部屋毎に計算し、全部屋の負荷を積み重ねて空調機の能力を算出いたします。さらに温度だけでなく、部屋内が快適な空間となる様に湿度まできちんとコントロールしています。空気の温度と湿度は目で見ることは出来ず、いかに快適な空間を人工的に作り出すかが機械設備設計の要です。

設計で大変だったこと

冷凍倉庫の新築設計をしているときに、天井裏の結露対策をするように上司から命じられました。冷凍倉庫内は決まった温度湿度にするため設計が比較的容易に進みましたが、外壁と冷凍倉庫の間に断熱も兼ねて広い空気層が作られていました。湿度コントロールがきちんとできていないと、慢性的に結露してしまい、最終的に見えない箇所までカビが発生し環境が最悪になる場合があります。そのため、空気層ではカビが生じないよう温度と湿度、換気量を入念に考慮し計算を行いました。

しかし竣工後、冷凍倉庫が稼働したら見事に結露が生じてしまいました。幸いカビが発生する前でしたので被害は大きくならずに済みましたが、入念に設計計算をしたにも関わらずなぜ結露が発生したのか原因が分からず非常に苦しみました。工事担当者と現地調査を何日もかけて温度を継続的に測定したり、壁面温度を測定し分布図から結露のムラを想定したり様々な検証を行いました。その後、現地調査で判明しましたが、設計にも無い予期せぬ箇所からの外気導入があった事が原因であることが分かりました。

 このように結露は目に見えなくて何が原因なのか特定する事が困難であると同時に、設計時には分からない事が多くあります。

また後日、上司が私に結露対策をするように命じたのは、設備の状況から結露する可能性が高いと予想していた事を聞き、上司の経験と知識に脱帽したことがありました。それと同時に、設計ができるだけでは良い建物を建設する事はできず、機械設備だけでなく建築まで広げて俯瞰的に全体を見て判断する技術力が必要であると感じました。

設計担当で成長できたこと

設備設計時にふと、「この状況だと以前、別の物件で問題が生じたが今回は問題無いか?」と予想をする事ができ、事前に改善や客先に提案する事ができるようになりました。特に予想を立てて追及してく大切さを肌で感じ取り、仮定と検証の繰り返しにより問題が無い事の確認、または問題がある事の判断をする事ができるようになり、大いに役立っています。何より仮定と検証の繰り返しにより自分の技術力を向上する事ができました。

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