コラム 建築技術者が書く、リアルなお仕事コラム。
人事担当者が語る、建築技術者の採用について。
「企業は応募者の”素”を想像している」
こんにちは。私は都内の不動産売買企業にて中途採用業務を担当する傍ら、副業で不動産会社様、一級建築士事務所様、設備工事会社様などの中途採用業務をご支援している者です。今回は、採用側としての立場で、応募書類や面接・面談でどのようなことを見ているか、僭越ながら私の経験をもとにお話ししてまいります。
1.経験職務と期間
企業が社員を採用する時に行う大事なことの一つとして、「人物要件を定める」というものがあります。「***の経験を有していて、出来れば●年以上経験していてほしい、年齢は〇〇歳までが望ましい」というように、それが本部サイドからであろうと現場サイドからであろうと、必ず希望する人物像の要件が出てきます。
特に、施工管理職や設計職といった「技術職」の採用となると、経験職務と期間は極めて重要な要素となります。これは即戦力採用では言わずもがな、俗に言うポテンシャル採用でも見落とすことのできないものとして、私は捉えています。
以前、戸建の建築施工管理職を募集していた時に、施工管理業務の経験はないけれど、建築資材営業職を2年ほど経験していた男性が応募してこられて、採用に至ったことがあります。資材の知識を有していること、営業として現場に出入りしていたことが目に留まり、そこを評価されたというケースです。
応募者の方の武器である「経験職務と期間」は、採用する側にとっては、募集する職種との関連性を図る大切な尺度にもなります。私は技術職の採用においては、何よりもまず「どのような職務をどれぐらい経験されているか」を見させていただくようにしています。
2.「書き方」から応募者を想像する
ご経験や期間が、募集している職務に合致していると感じたら、次は「経歴の書き方」に注目します。
ウェブ上でも書類上でも、数々のご経験を期間や受注金額など一つひとつ事細かに書かれる方、「主な担当案件」というようにいくつかに絞って表す方、「電気工事施工管理」というように1フレーズで表す方etc…。書き方は人それぞれです。それぞれであって然るべきですし、どれが正解でどれが不正解かというようなものでもありません。それぞれであるからこそ、私はその書き方から、応募者がどのような方なのかを想像しています。
例えば、担当案件を1件ずつ丁寧に記していただいた場合は「担当されてきた業務に誇りを持っていて、予算や利益に対しても細かく刻んで考える方なのかもしれない」と想像できますし、案件を絞って表している場合は「物事をグループ化して考えることに長けている方かもしれない。より細かな作業が必要なときはどうなるだろうか」などという風に感じられます。
そしてもう一つの大事なポイントは「相手のことを考えて書いたものかどうか」ということです。
先に例として挙げた、いくつもの案件を1件ずつ記述しているケースですが、その方が数多くの経験を積まれてきていることを容易に想像できる反面、読みづらさを感じることもあります。それはつまり「ご自身の経験をアピールすることに固執するあまり、読み手の読みやすさにまで気が回らなかったのかもしれない。そうなると、社内の関係者や協力会社とやり取りをするときにも、自身のことに固執してしまう方なのではないか」という可能性にも繋がります。
このようにして色々なパターンの仮定の人物像をインプットしておくのです。そしてそれらの情報を活かして臨むのが次のステップ、「面接」の場です。
3.想像を確かめる場としての面接
応募者の一連の情報を拝見し、一度お会いしてみたいとなりましたら、面接に進むことになります。採用を目論む企業の面接官には、それぞれの思惑や役割があります。私はこれまで一次面接やオンラインカジュアル面談などを担当しておりましたので、この経験をもとにお話ししたいと思います。
一次面接やオンラインカジュアル面談における私の目的の一つは、想像していた人物像がその通りのものであるか、それとも異なる印象を受けるかを確かめることです。
志望動機やそれまでのご経験など、お話を伺っていく中で、私は特に表情や話し方、しぐさに注目しています。時間が経つにつれて緊張もほぐれていくと、徐々にしぐさや話し方などに応募者様の習慣やくせのようなものが表れてきます。それらを拝見しながら、「想像していたことと近いものが感じられる」とか「想像と違い、こういうところに価値観を置いておられそうだ」というようにまとめています。
そして実際にお会いして受けた印象を、決定権者や主要メンバーに伝えます。良い印象であればもちろんのこと、ネガティブな印象だったとしても、「私はこのように感じた」と一つの意見として伝えます。その狙いは、応募者の性質が、既存の社員や取引先にどのように影響するかを頭に入れて、二次面接に臨んでもらうためです。
部門長や支店長などマネジメントする立場の者は、応募者様の技術や経験はもとより、既存の社員との相性や、取引先との関係性なども確認しなければなりません。社内を活性化してくれそうか、取引先と信頼関係を築いてくれるか、というようなことを見極める必要があります。
そのためには、良く感じられた面もネガティブに感じられた面も正直に伝え、公正に判断してもらわなければなりません。私にとってはマイナスの印象だったとしても、決定権者や主要メンバーも同じように感じるわけではありません。むしろ、かつての上司は私がネガティブに受け取った要素でも、「現況を変えるためには、そういう性質を持っているであろう人こそ必要だ」と判断し、採用としたこともありました。
応募者様の技術や経験や性質、組織の構成や状況など、いくつもの要素が上手くかみ合ったときに、一緒に働くご縁が生まれるのだと思っています。
4.活躍いただくための土台作り(企業側の取り組み)
これまで応募者の経歴から経験職務と期間、それらの書き方を拝見し、面接・面談ではそこから想像した性質がその通りだったか、どのように異なるかを拝見しているとお話ししてきました。その意図についてですが、それはなるべく早いうちから応募者の「素」の姿を少しでも把握しておきたいと思うことにあります。
少しでも‘予備知識’を持っていれば、前もって「こういう風に話していく方がよさそうだ」とか「しばらくは相性の良さそうなこの社員とコンビを組ませてみよう」と思いを巡らすことができますし、そのことが採用を決定する要因にもなり得ます。入社いただいた後に見込みが違ったとしても、それほど迷わず軌道修正することも可能です。
無理のない素の姿で活躍されているイメージができれば、企業側としては是非うちで働いてほしいと思うものです。
採用する側としては、入社を決めてくださった応募者様には、出来るだけ早く活躍してもらいたいと思うものです。早期に活躍することができれば、本人も「この会社を選んで間違いなかった」と前向きに捉えてくれるでしょう。そのためには本人の頑張りが必要なのは当然ですが、活躍してもらうための土台を作ることが、迎え入れる企業側が初期にやるべきことの一つではないかと思います。応募者の素の姿を想像することが、その第一歩です。
5.取り繕わないこと
ここまで採用側の立場でお話をさせていただきましたが、このことを求職者である皆様の視点へと置き換えましょう。
要するに面接では、かっこつけすぎない、やれないことはやれると言わない、完璧な人物像を目指さなくてよい、ということです。
こちらは自然なありのままの姿を予想しながら選考しているのですから、自分自身を偽らないことがなにより重要です。
取り繕った姿を見せても、大抵の人事はそれを見抜きます。
もし上手くやり通して、仮に面接でそれを見抜かれなかった場合。企業は偽りのあなたの姿を想定して、受け入れる準備を進めることになります。当然その采配は上手く機能せず、結果として配属先などにミスマッチが生じてしまったりするかもしれません。
襟を正してよそゆきの顔で面接に挑むことは、礼儀という意味ではもちろん大切ではあるのかもしれませんが、重要なのはやはり「盛りすぎない」こと。
面接はゴールではなくあくまでスタートであることを心得て、入社後の自分を想像しながら、等身大の自分で勝負しましょう。
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