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「建築設備士」取得者が語る、資格についてのあれこれ

2023.07.25

建築物の中で建築設備の占める割合は、従前に比べ日に日に高まっています。DX化による建築設備の重要性の高まりと共に高度化、複雑化も進み、また省エネやSDGsの普及によっても建築設備はその果たす役割が大きくなってきています。

建築設備士は取得難易度の高い資格ですが、建築設備業界では最重要資格と言っても過言ではありません。建築士法では『建築士は、延べ面積が二千平方メートルを超える建築物の建築設備に係る設計又は工事監理を行う場合においては、建築設備士の意見を聴くよう努めなければならない。ただし、設備設計一級建築士が設計を行う場合には、設計に関しては、この限りでない。』と定められており、その重要度が伺えます。

取得に至ったきっかけ

私は女性として建設業界に足を踏み入れるにあたり、大学卒業時に立てた目標がありました。『1級の電気・管工事施工管理技士と建築設備士を必ず取得すること』男女平等が叫ばれる今でも、まだ建設業界では男性が多く、信頼を勝ち得るためにはせめて資格がなければと思ったためです。

建築設備士の試験内容について

建築設備士試験は第一次試験として【学科試験】、その後第二次試験【設計製図試験】があります。

【学科試験】

学科試験においては建築一般知識、建築法規、建築設備の3部門について出題されます。建築一般知識と建築法規は建築士と同様の学習をしていれば問題ありませんが、建築士の受験経験がない方は過去問を5~10年分反復すれば十分対処できます。いずれも建築士試験に比べ建築環境工学や建築設備に特化した内容が多く出題されます。

建築設備の部門では昨今あまり採用されないシステム等に問われることも多く、日常的に建築設備に携わっているから大丈夫と過信せず、こちらもしっかり過去問を反復していくことが大切です。また、一概に建築設備と言っても電気設備、空調・換気設備、給排水衛生設備のいずれかに特化して日常業務をされている方も多くいることと思います。建築設備士試験では分野選択をすることができず建築設備全般について問われますので、自分の担当業務外の基本的な知識、計算をマスターすることが必須となります。

【設計製図試験】

学科試験を通過した後は設計製図試験が待ち構えています。この設計製図試験では電気設備、空調・換気設備、給排水衛生設備を選択することができます。建物概要と諸条件が与えられ、まずは共通の必須問題として基本的な計画要点についての記述問題があります。これはある建物用途や条件に特化した要点の記載というよりは、常に共通して言える要点の記載をすればOKです。例えば『非常照明は直射照明で床面において水平面照度1lx以上(光源がLEDの場合は2lx以上)の照度を30分確保するよう配置する』など。学科試験で問われる内容とも重なりますので、学科試験では選択問題の答えを暗記するような勉強法ではなく、この共通問題の記述に活かせる学習をすることが大切です。

続いて選択問題では電気設備、空調・換気設備、給排水衛生設備の基本設計製図となります。試験実施機関の建築技術教育普及センターのホームページでは合格基準や採点のポイントが記載されていますが、参考書や問題集・解答集が発売されておらず初めて受験される方はどのような対策をすれば良いか困惑すると思います。そこでおすすめするのが、(一社)日本設備設計事務所協会連合会と(一社)電気設備学会の共同主催にて開催される【「建築設備士」第二次試験受験準備講習会】への参加です。この講習会は学科試験終了後すぐに席が埋まってしまう程の人気ですが、その年の出題テーマに沿った製図のポイントや類似問題の回答例の冊子などが配られます。二次試験の設計製図試験をパスし、晴れて建築設備士になるための最短ルートとして、この講習会への参加を強くおすすめします。

私の実践した学習方法は

学科試験は過去5年分の過去問が掲載された参考書1冊を繰り返し解きました。設計製図試験対策としては上記の講習会へ参加し、試験機関で公開されている解答用紙をA2サイズ(実際の試験時の解答用紙サイズ)に印刷の上繰り返し作図しました。作図の際には講習会で配布される問題集の模範回答を模写しパターンを覚えることと、必ず時間を計りながら行うことが必須です。学科、設計製図試験共に基礎知識の補填として利用したのは通称『茶本』こと国土交通省大臣官房官庁営繕部が出版している建築設備設計基準です。

建築設備士の取得メリットは

さてここまで建築設備士試験についてざっくりと説明してきましたが、取得までの道のりが果てしないように感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。大変な思いをして建築設備士を取得した後のメリットはどれくらいあるのか考えていきましょう。

【建築士試験の受験資格付与】

建築設備士は、一級建築士、二級建築士、木造建築士について、実務経験なしで受験資格が付与されます。

【設備設計一級建築士の講義及び修了考査のうち「建築設備に関する科目」が免除】

設備設計一級建築士になるためには延べ3日間の講義の受講が必要ですが、建築設備士であればそのうち2日間分の建築設備に関する科目の受講が免除されます。またその後の修了考査においても同様に設計製図が免除となります。

【実務において】

建築士法にあるように設計・監理においての建築設備士の重要性はもちろんのこと、施工管理(現場サイド)においても建築設備士取得はメリットがあります。非住宅建築物の新築・増改築(床面積の合計300㎡以上)を行う場合、省エネ基準への適合義務および適合性判定を受けることが義務付けられたことにより、設備技術者の施工管理における役割も非常に重要となりました。名実共に設備技術者として活躍するためには、建築設備士取得は大きなメリットとなり得ます。

最後に

建築設備士試験は建築士と同様に非常に難しい試験です。しかし、今後建築設備士の需要はより高まっていくと考えられます。キャリアアップのきっかけとして建築設備士受験を検討されてみてはいかがでしょうか。

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